種まき−1


  1.はじめに(タネとは何か)

  農業で使われている「タネ」という言葉は、植物学でいう「種子」とは一致しません。それは「タネ」には、(1) 本当の種子、(2) 果実そのもの、(3) 果実とそれ以外の部分を用いるものなどが含まれるからです。

        
  (1) 種子を用いるもの
  アブラナ科、イネ科、アオイ科、ウリ科、ゴマ科、シナノキ科、ツルムラサキ科、ナス科、マメ科、ユリ科など野菜のタネ。
  大部分の野菜のタネはこれに該当します。
  (2) 果実を用いるもの
  セリ科の「あしたば」や「コリアンダー」、「セロリ」、「にんじん」、「パセリ」、「みつば」など。
  キク科のカモミールや「ごぼう」、「しゅんぎく」、「レタス」など。
  シソ科の「しそ」や「バジル」、「ミント」。バラ科の「いちご」や「サラダバーネット」。
  一般的には、発芽率の低いタネが多いです。いまでは「にんじん」や「レタス」など、小さくて細長く、蒔きづらいタネを1粒ずつ珪藻土などで丸く固めた「ペレット種子」も開発されています。

  (3) 仮果(果実以外の花弁や萼などを含む)を用いるもの
  アカザ科の「おかひじき」や「ふだんそう」、「ほうれんそう」など。
  これらのタネは、付属物が付着しているために発芽率が低いです。そのため「ほうれんそう」では、タネの硬い殻を取り除いたネーキッド処理、タネの水分量を精密にコントロールすることで、人工的に発芽の準備を進め、発芽直前で乾燥させたプライミング処理などが行われるようになりました。
2.タネの構造

  野菜や花のタネは、大きさも形状もまちまちです。最大のタネは「オオミヤシ」で1個が、大きいもので長さ35cm、重さ20kgもあります。反対に小さいものでは、着生ランがダントツです。重さが重さが1億分の1gしかありません。でもその中の構造は、直径1ミリにもならない微細種子についても基本的に同じです。

「ココやし」



  (1) タネの外側には種皮(子房中の珠皮が発達したもの)があります。
(2) タネの中には、胚(子葉、上胚軸、胚軸、胚根)それに胚乳(幼植物の養分を貯える)があります。
※胚は、タネの本体で、次代の幼植物が微小な形のまま、発育を一時中止しているものです。
(3) 上胚軸は、タネが発芽すると成長を開始して、幼芽(新しい枝葉)に発達していきます。
(4) 胚軸は、茎と根に分化成長していく継ぎ目で、胚根が分化成長して幼根となって発育していきます。
(5) 子葉は、双子葉植物で通常2枚、単子葉植物では1枚です。この子葉は養分の消化吸収を担っていて、この子葉の形状で苗の生育の良否を判断できます。

※これは、なぜタネをいくつも蒔くのか、間引きの時どの株を残せばいいのかの答えにもなります。
3.有胚乳種子と無胚乳種子

  タネのなかには、発芽までの栄養を貯蔵する組織として、胚乳と子葉があります。胚乳のあるタネは「有胚乳種子」と呼ばれ、胚乳がなく、その代わりに胚の中に大きく発達した子葉のあるタネは「無胚乳種子」と呼ばれます。

有胚乳種子(とうもろこし)
  (1) 有胚乳種子
  有胚乳種子は栄養分が蓄えられている胚乳が種子の大部分をしめていて 胚の部分が小さいのが特徴です。
  単子葉植物と一部の双子葉植物が該当します。
  イネ科の植物や「トマト」、「ナス」、「ねぎ」、「ほうれんそう」など、花では「おしろいばな」があります。

無胚乳種子(虎丸鶉いんげん)
  (2) 無胚乳種子
  無胚乳種子では種子の大部分は子葉が占めています。子葉は体になる部分であり胚に含まれます。そのため、無胚乳種子では種皮以外の部分がぜんぶ胚に含まれることになります。
  ほとんどの双子葉植物が該当します。
  マメ科の植物や、「キャベツ」、「きゅうり」、ごぼう」、「すいか」、「だいこん」、「レタス」など、花では「あさがお」や「ひまわり」などがあります。
4.タネまき(種蒔き)の意味

  この「蒔」という文字は、もともとは中国で稲の苗などを植え替えるときの意味で使われていました。わが国へ渡来してからは、万葉集にも「種をまく」という意味で使われています。
  今考えれば、「種蒔き」という言葉は、作物の成長する時を与えること、その切っ掛けを与えることと考えていいのだと思います。
5.タネの発芽に必要な要素

  野菜や花のタネが発芽するには、水分と適正な温度、それに酸素が必要です。これは、種類によって異なります。
  この条件が満たされないと、タネが発芽しない(タネが死んでしまった)という状況になります。

(1) 水分
  タネが発芽するには、水分が必要です。イネ科のタネは重さの25〜30%、マメ科のタネは80〜120%吸収します。この水分の量は多すぎても少なすぎても良くありません。
  水分が多すぎると、酸素の供給が妨げられ、発芽が阻害されますし、少なすぎると発芽に必要な量を吸収できず、発芽遅れや、成長が停止します。
(水分不足で発芽しない)
○せっかく芽が出ようとしているのに、水切れさせてしまった。芽は土中で枯れてしまうので、もう発芽しません。
○まき床やポットの土は、いつも適度に湿っている状態を保つ事が大切です。(発芽までは、毎朝水やりするのが原則。土の表面が乾いていたら。)
(水分過剰で発芽しない)
○大粒のタネの場合、ぜんぜん芽が出てこないのは、こういう場合が多いもの。たねまき用土はなるべく水はけの良いものを使います。
○また、大粒のタネの場合は、土が乾く直前まで水を控え、乾き気味に管理するのがポイント。とくに、芽が出る前に雨に当てるのは避けたいものです。

(2) 温度
  ふつうタネは5℃くらいの低温から発芽し始め(発芽最低温度)、だんだん温度が上がるつれて発芽も良好になります。この最高点が発芽適温です。さらに温度を上げていくと逆に発芽が悪くなり、まったく発芽しなくなります。(発芽最高温度)
  販売されているタネの発芽率は、この発芽適温で行われています。また、タネのなかには「なす」や「みつば」のように、一定の温度では発芽しにくいものもあり、発芽試験も変温条件で行われています。
  ふつうの野菜のタネは20℃〜25℃を発芽適温とするものが多いですが、30℃以上の高温を好むもの(すいか、かぼちゃ、スイートコーン、大豆、いね)や、反対に20℃以下の低温を好むもの(ほうれんそう、レタス、セロリー、えんどう、そらまめ、ねぎ、たまねぎ)などがあります。
(発芽温度を守れなかった)
○温度は高すぎても、低すぎても芽は出てきません。

(3) 酸素
  あまりにも深い覆土とか水浸しという場合を除いて、酸素は空気中に十分にあるため通常は問題になりません。一般に10%以上の酸素濃度を必要としますが(空気中の酸素濃度は約21%)、これも種類によりかなりのばらつきがあります。
(酸素不足)
○タネが発芽するときには、呼吸作用がさかんになり多くの酸素を必要とします。深まきしすぎたり、まき床が水浸しになって酸素不足が原因で発芽できない事もあります。(長雨が予想されるときに、マメ科のタネをまくと、土のなかで窒息状態になり、腐敗してしまうことがあります。)

(4) 光
  タネが発芽するとき、光の存在によって発芽が促進されるタネを好光性種子、反対に抑制される種子を嫌光性種子といいます。ただ、光の影響は発芽温度によってかなり変化します。また、この中間で光の影響をまったく受けない中間性の種子もあります
  ふつう覆土は、タネの大きさの2〜3倍にします。好光性種子の場合は、覆土はせいぜい2〜3ミリ、覆土をせず軽く転圧して敷き藁をしておく方法もあります。
●好光性種子
「しそ」、「みつば」、「セロリ」、「にんじん」、「しゅんぎく」、「レタス」、「ごぼう」、「いんげんまめ」、「おだまき」、「きんぎょそう」、「ひなぎく」、「トルコぎきょう」、「ペチュニア」、「まつばぼたん」、「ちどりそう」
●嫌光性種子
「だいこん」、「ねぎ」、「たまねぎ」、「にら」、「かぼちゃ」、「すいか」、「しろうり」、「まくわうり」、「きゅうり」、「トマト」、「なす」、「アイスランドポピー」、「ガザニア」、「きんれんか」、「にちにちそう」、「ニゲラ」
(タネの性質を考えず覆土をした、またはしなかった)
○好光性種子は覆土が深いと発芽しません。逆に嫌光性種子に覆土しなかった場合も、芽が出ません。
6.タネの向き

  タネには向きがあります。向きのない小さな球形のタネは、ふつうにまいて構いませんが、向きのあるタネは、ヘソ(胚に近い部分)を下向きにまくと、発芽とそのあとの成長がよくなります。

  ○「とうもろこし」は、三角形のとんがり部分を下向きに蒔きます。(とんがり部分に胚があり、下向きにすると発芽に要するエネルギーが少なくて済み、芽は地上へ、根は地下へとまっすぐ伸びられるため。)




  ○「そらまめ」は、「おはぐろ」の部分を下に水平にして差し込みます。 覆土は浅め、少しタネが見えるくらいが適当です。覆土が深いと、発芽率が悪くなります。(「そらまめ」は発芽時の酸素要求量が他よりも多く、完全に埋めてしまうと、酸素不足で発芽できないことがあるため。)
○また、水はけのよい土なら、タネを平置きにして覆土を1センチほど掛けても、タネが腐らず発芽すると思います。

○「いんげんまめ」は、ヘソを下に向けて蒔きます。

○「えんどう」は、目の部分を下向きに蒔きます。(わからないときは、平らな部分を水平に。覆土が浅いと、根が出てきてしまうことがあります。)

○「かぼちゃ」は、尖った部分を下向きに蒔きます。(尖った部分に胚があるので、傷つけるのはそれ以外に。)

○「にがうり」は、尖った部分を下向きに蒔きます。(尖った部分に胚があるので、傷つけるのはそれ以外に。)
7.タネの寿命

  タネは、発芽環境が与えられるまで、最小限の生命維持活動で待機を続けます。ただある期間を過ぎると、養分を消耗しつくして発芽力がなくなります。
  この期間には、長短がありますが、高温多湿な環境下では短くなります。(下記の資料は、常温下でのタネの寿命。)

(1) 短命の種子(1〜2年)
  「ねぎ」、「たまねぎ」、「にんじん」、「みつば」、「らっかせい」

(2) やや短命の種子(2〜3年)
  「キャベツ」、「レタス」、「ほうれんそう」、「とうがらし」、「ごぼう」、「えんどう」、「いんげんまめ」、「そらまめ」

(3) やや長命の種子(2〜3年)
  「だいこん」、「かぶ」、「はくさい」、「漬け菜類」、「きゅうり」、「かぼちゃ」

(4) 長命の種子(4年以上)
  「「なす」、「トマト」、「すいか」

  したがって、余ったタネの保存方法としては、チャックポリ袋に乾燥剤を入れ、冷蔵庫の野菜ケースにいれるのがベスト。温度と湿度が低くて一定しているところなら、数年は持ちます。
(タネが古い、または管理が悪かった)
○タネは古くなると発芽率が悪くなります。また、また、買って帰りうっかり湿気の多い場所や暑いところなどにおいて置くと発芽率が下がってしまいます。
8.その他、タネが発芽しない原因

(湿度が高すぎた)
○温度を確保するため、まき床をガラスなどで覆っておくと、温度は保てますが、湿度が異常に高くなり、タネが腐ってしまうことがあります。
(硬実種子を吸水させすせにまいた)
○「あさがお」などの硬実種子は、ふつう一晩水に漬けてからまくか、種皮(タネの胚以外の部分)にかるく傷をつけてからにします。(他によるがお、スイートピー、ルピナス、カンナ、ペラルゴニウム、オクラなど)
○この処理をしない場合は、必ず毎朝の水やりが必要です。
(水やりの水が強すぎてタネが流れた・埋もれた)
○タネをせっかく薄く均等にまいても、上から強く水をかけてはタネが流れてしまいます。
○播種後の水やりは、大粒のタネをのぞいて、底面吸水させるか、ハンドスプレーなどで優しく水をやります。じょうろのときは静かに慎重に。
○タネは横に流れるだけでなく、奥深く沈む事もあります。とくに微小種子に場合には、結果的に深植えになって、発芽不良になることもあります。(タネまき用土は、できるだけ細かく水はけのよいものを。あるいは微小なタネのときは、ピートバンなども利用するようにします。)
9.発芽率について

  タネは自然物である以上、100%の発芽率は求められません。また野菜の種類によってもタネが発芽しやすい、または発芽し難いという特徴があります。そのため、種苗法では、「技術的に困難な場合を除き、別表二の発芽率の欄に掲げる数値以上になるよう調整すること」と定められています。




  ○ひとつの例ですが、「そらまめ」のタネを蒔いて、1か月ほど経過した様子です。タネの向きや、水やりの管理などに留意して播種・育苗した結果です。大部分は定植株となっていますが、一部に発芽不良のものも見受けられます。
○この発芽不良の株を抜いてみると、左下の写真のようになります。幼芽や幼根の成長が止まっているのが分かるかと思います。このような株は、定植してみても途中で腐ってしまうので、諦めた方が賢明です。また、カビが生えているようなときは、ほ場に出すと伝染する場合もありますので、廃棄することをお勧めします。
    ○別表二
アスパラガス 70%
いんげんまめ 80%
えだまめ 75%
えんどう 75%
オクラ 70%
かぶ 85%
かぼちや 80%
からしな 85%
カリフラワー 75%
キャベツ 75%
きゅうり 85%
ごぼう 80%
在来なたね 85%
しゅんぎく 50%
すいか 80%
セロリー 70%
そらまめ 75%
だいこん 85%
たまねぎ 70%
とうがらし 75%
とうもろこし 75%
トマト 80%
なす 75%
にら 70%
にんじん 55%
ねぎ 75%
はくさい 85%
パセリ 60%
ブロッコリー 75%
ほうれんそう 75%
みつば 65%
めキャベツ 75%
メロン 85%
ゆうがお 75%
レタス 80%
  写真提供: 「ボタニックガーデン」
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